大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和53年(う)1493号 判決

本籍

大阪市南区瓦屋町一番丁六番地

住居

右同所

人形玩具卸小売業

増村正晴

大正二年一〇月一八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五三年五月三〇日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 青木義和 出席

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人中西清一作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、原判決の量刑、特に罰金刑の量刑が重過ぎて不当である、というのである。しかしながら、記録を調査して検討するのに、被告人がほ脱した所得税額は三年間で合計九、一〇五万七、一〇〇円もの多額にのぼっており、このような多額の脱税は国民の納税倫理に著しく反するもので犯情悪質といわざるをえないのであって、犯行動機及び犯行手口が所論のとおりであり、また事件発覚後は素直に脱税の事実を認めると共に、ほ脱税額はもとより、延滞税、過少申告加算税、重加算税をすべて納付して深く反省していることなど諸事情を十分考慮しても、被告人に対し懲役一〇月、執行猶予二年と併せてほ脱税額の約二二パーセントにあたる罰金二、〇〇〇万円を科した原判決の量刑は、この種事件の罰金刑の科刑基準に照らし重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 児島武雄 裁判官 角敬 裁判官 角田進)

○控訴趣意書

被告人 増村正晴

右に対する所得税法違反被告事件について左のとおり控訴趣意書を提出いたします。

昭和五三年一一月二一日

弁護人 中西清一

大阪高等裁判所

第六刑事部御中

原審の刑の量定は不当である。

一 原審により認定された事実は被告人が昭和四九年度四〇、八六六、三〇〇円、五〇年度三五、二七四、七〇〇円、五一年度一四、九一六、一〇〇円の各所得税を免れたものであって、右事実は被告人が当初からこれを認め、その非を除く反省している上、右ほ脱税額九三、一五三、六〇〇円に過少申告加算税、重加算税等計三五、一二四、三六〇円を付加して合計一億二、八二七万余円を捜査終結直後完納しているものである。

二 また本件犯行の動機は一件記録上明らかなように、被告人は年少の頃から所謂丁稚として松屋町筋の人形問屋に奉行し、十数年後ようやく独立して開業したものの二年も経たずして応召し、復員後再出発したのであるが容易に銀行融資などが期待できなかったことから、小商人が生きて行くためには資産を備蓄する以外にはないと考えるに到ったもので、その犯行の手口も現金売上の一部を除外して定期預金にしたり、棚卸金額を過少に計上するなど極めて単純幼稚なものである。従ってこの幼稚さがまた本件が容易に発覚した理由ともなっているものであって、この点から見ても被告人の犯行は決して悪質なものと云うことは出来ない。

三 更に被告人にとって本件発覚後ほ脱税額の納付は当然のこととしてもこれに対する延滞税、過少申告加算税、重加算税の納付は決して容易なことではなかったのであるが、辛苦の末これを調達して前記のとおり完納して悔悛の情を示しているものである。

四 以上諸般の情状を勘案すれば原審の懲役一〇月(猶予二年)特に罰金二、〇〇〇万円の量定は極めて重く不当であると信ずるものであります。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例